CEO Edition
倉持 岳氏のポートレート
CEO Edition 20212021 Grand Focus

Gaku Kuramochi

倉持 岳

Founder / CEO / オルビトン

在庫はあるのに、動かせない。倉庫、店舗、出荷前確認のあいだに残る小さな遅れを見つめ、運用の呼吸を整える倉持岳の仕事。

Grand Focusは、各年のグランプリを受賞された人物を通常プロフィールより深堀りする特集枠です。本ページでは、事業の背景、組織づくり、意思決定の過程まで踏み込んで紹介します。

Year
2021
Role
Founder / CEO
Industry
在庫移動・出荷確認支援
Tags
在庫移動・出荷確認支援事業設計組織づくり

Profile Summary

Profile

倉持岳氏が率いるオルビトンは、在庫移動と出荷準備の確認をまとめる運用ノートを提供している。倉庫や店舗の現場では、在庫の有無だけでなく、どこにあり、いつ動かせて、誰が確認したのかという情報が重要になる。ところが、その確認は電話、チャット、紙のメモ、担当者の記憶に分かれやすい。

倉持氏は、その分断を大きな改革としてではなく、日々の確認の積み重なりとして捉えてきた。目指しているのは、現場の動きを止めずに、次の人が迷わないだけの記録を残すこと。倉庫側と店舗側の言葉の違い、出荷前の焦り、担当者が無意識に行っている点検の順番まで、丁寧に扱おうとしている。

倉持氏の原点には、幼い頃に見た小さな卸倉庫の記憶がある。商品は同じ箱に見えても、検品前、取り置き、移動中、返品待ちでは扱いが変わる。大人たちが短い言葉で状態を伝え合い、少しの遅れが次の人の迷いになる。その空気を覚えていたことが、のちに在庫移動と出荷確認への関心につながった。

取材中の倉持氏は、強い言葉で変革を語るより、現場で人が一瞬止まる場所を語った。棚の前で紙を見直す、端末を開いたまま考える、電話をかける前に少し黙る。そうした小さな停止には、情報の不足だけでなく、責任の所在や相手への遠慮が含まれている。オルビトンの事業は、その小さな停止を責めずに、次の動きへ変えるための試みでもある。

2021 Grand Focusでは、在庫移動の裏側にある判断、出荷現場の緊張感、そして属人化を責めずに仕組みに変える倉持氏の組織づくりを深く聞いた。

Company Focus

オルビトンは、在庫移動と出荷確認を支える業務支援を手掛ける。扱うのは、倉庫管理システムの大きな置き換えではなく、現場で起きている確認の手順、申し送り、例外対応の見える化である。

倉持氏が重視するのは、在庫情報を正しく持つことだけではない。現場がどの順番で確認し、どの時点で迷い、どの言葉なら次の担当者に伝わるのか。そうした業務の細部を扱うことで、店舗、倉庫、出荷管理のあいだにある小さな空白を埋めようとしている。

Business Focus

事業の焦点は、在庫移動の確認を短くする連携設計にある。現場では、データ上の在庫と実際に動かせる在庫が一致しないように見える場面がある。それは必ずしも在庫数の誤りではなく、移動予定、検品前、取り置き、出荷待ちといった状態の共有が遅れているだけの場合も多い。

オルビトンは、そうした状態の違いを現場が無理なく残せる形にする。確認を増やすのではなく、二度聞き、探し直し、念のための電話を減らす。倉持氏は、派手な自動化よりも、忙しい時間帯に人が落ち着いて判断できることを優先している。

Leadership Note

倉持氏の組織づくりは、現場の言葉を急いで標準語に置き換えないことから始まる。倉庫、店舗、出荷管理では、同じ「確認」という言葉でも意味が違う。何を見れば安心できるのかも、立場によって変わる。

だからこそ、社内では結論よりも観察を重視する。使う人の一日を想像し、忙しい時間帯に邪魔にならないかを確かめ、必要以上に機能を増やさない。古い慣習を否定せず、残すものと変えるものを分ける姿勢が、倉持氏のリーダーシップを特徴づけている。

Interview

Q&A

Question 01

在庫移動の課題に向き合うようになったきっかけを教えてください。

インタビュアー

在庫移動の課題に向き合うようになったきっかけを教えてください。

倉持

最初に気になったのは、在庫がないから困っているのではなく、在庫があるのに動かせないように見える場面でした。誰かが悪いわけではありません。状態の伝わり方が少し遅れているだけで、現場の判断が止まってしまうんです。

インタビュアー

在庫数そのものより、状態の共有に問題があったということでしょうか?

倉持

そうです。検品前なのか、移動待ちなのか、取り置きなのか。現場の人は感覚として分かっているのですが、それが次の担当者に渡る形になっていないことがありました。

Question 02

倉持さんご自身の歩みも伺いたいです。現場への関心はどこから来ているのでしょうか。

インタビュアー

倉持さんご自身の歩みも伺いたいです。現場への関心はどこから来ているのでしょうか?

倉持

子どもの頃から、物がどこから来て、どこへ運ばれていくのかを見るのが好きでした。親戚が小さな卸の仕事をしていて、夏休みに倉庫の端で伝票をまとめる手伝いをしたことがあります。そこで、商品そのものよりも、商品を動かす人たちの会話が面白かったんです。

インタビュアー

商品ではなく、人の動きや会話に惹かれたのですね。

倉持

そうですね。『これはまだ出せない』『あの店は先に回した方がいい』『これは戻ってくるかもしれない』という会話が飛び交っていました。子どもには全部は分かりませんでしたが、同じ箱でも状態によって扱いが変わることだけは強く覚えています。

インタビュアー

今の事業にかなり近い原風景ですね。

倉持

近いと思います。大人になってから倉庫や店舗の仕事を見るようになって、あのとき聞いていた会話の意味が少しずつ分かりました。在庫は数字ではありますが、実際には人の判断の連続でもあるんです。

インタビュアー

幼い頃の記憶が、後から言葉になった。

倉持

はい。だから、私は現場を抽象的な業務フローとしてだけ見られないんだと思います。そこには声の大きさや、急いでいる空気や、ちょっとした申し訳なさまである。それを無視して仕組みをつくると、たぶん使われません。

在庫移動の確認について語る倉持 岳氏
在庫移動と出荷確認の流れについて、運用画面を見ながら説明する倉持 岳氏。

Question 03

倉持さんは、現場を見るときに何をメモしているのですか。

インタビュアー

倉持さんは、現場を見るときに何をメモしているのですか?

倉持

最初に見るのは、人が止まる場所です。棚の前で一瞬立ち止まる、紙を見直す、誰かに声をかける、端末を開いたまま考える。そういう小さな停止をメモします。

インタビュアー

停止を見るのですか?

倉持

はい。止まる場所には、たいてい理由があります。情報が足りないのか、判断する権限がないのか、過去にそこで間違いが起きたのか。止まっている人に『なぜ止まったのですか』と聞いても、最初は本人も分からないことがあります。

インタビュアー

無意識の動きだからですね。

倉持

そうです。だから、いきなり質問するより、しばらく見ます。何度も同じ場所で止まるなら、そこに仕組みで支えられる余地がある。逆に一度だけの停止なら、その日の事情かもしれない。

インタビュアー

かなり観察の仕事ですね。

倉持

観察ですね。格好よく言うほどではありませんが、現場で起きていることを急いで結論にしないようにしています。早く答えを出したくなるのですが、少し待つと別のものが見えてくることがあります。

インタビュアー

メモはどのように残しているのですか?

倉持

手書きも使います。棚の位置や人の動きは、図で描いた方が分かりやすいことがあります。あとで画面設計をするときにも、その手書きの線が役に立ちます。きれいな資料より、現場で急いで描いた線の方が本質を持っていることもあります。

Question 04

最初から今の考え方だったのでしょうか。

インタビュアー

最初から今の考え方だったのでしょうか?

倉持

いえ、最初はもっときれいなものをつくろうとしていました。見やすいダッシュボードをつくれば、現場の人も管理者も助かるだろうと思っていたんです。

インタビュアー

それは自然な発想にも聞こえます。

倉持

自然ではあるのですが、現場では思ったほど見られませんでした。忙しい時間に、きれいなグラフを見ている余裕はないんです。必要なのは『今この箱を動かしていいか』であって、全体の傾向ではない場面が多い。

インタビュアー

管理者が見たいものと、現場が必要なものが違った。

倉持

かなり違いました。管理者向けの情報はもちろん必要です。ただ、現場で入力されないものは管理者にも届きません。そこを取り違えていました。

インタビュアー

失敗した感覚はありましたか。

倉持

ありました。いいものをつくったつもりなのに、使われない。最初は少し落ち込みました。でも、現場の方に『見た目はいいけど、今ほしいのはそこじゃないんだよね』と言われて、目が覚めました。

インタビュアー

率直な言葉ですね。

倉持

ありがたかったです。少し痛かったですけど(笑)。そこから、見せたいものではなく、使われる順番を考えるようになりました。

物流現場の運用を確認する倉持 岳氏
倉庫側と店舗側の連絡をどう短くするか、現場の視点から話す倉持 岳氏。

Question 05

在庫移動の仕事には、責められやすさもあるのでしょうか。

インタビュアー

在庫移動の仕事には、責められやすさもあるのでしょうか?

倉持

あります。商品が見つからない、出荷が遅れる、店舗で必要なものが届かない。そういうとき、誰かの確認不足として見られやすいんです。

インタビュアー

実際には一人の問題ではないことも多い。

倉持

多いです。前の担当者が悪いわけでも、次の担当者が悪いわけでもない。情報が途中で薄くなっているだけの場合があります。ところが、結果だけを見ると『誰が確認したのか』という話になってしまう。

インタビュアー

そこで空気が悪くなる。

倉持

なります。現場の人は真面目ですから、自分が悪かったのではないかと思ってしまう人もいます。だから、確認の履歴は責めるためではなく、責めなくて済むために必要だと思っています。

インタビュアー

責めなくて済むための記録。

倉持

はい。どこで状態が変わったのか、誰が何を見たのかが分かれば、人格の問題にしなくて済みます。手順を直せばいいのか、表示を変えればいいのか、時間帯の問題なのかを話せるようになる。

インタビュアー

記録があることで、会話が冷静になるのですね。

倉持

そうです。記録は人を縛るものにもなりますが、設計次第では人を守るものにもなります。私は後者にしたいです。

Question 06

倉持さんの話し方は、かなり静かですね。経営者として意識しているのですか。

インタビュアー

倉持さんの話し方は、かなり静かですね。経営者として意識しているのですか?

倉持

少しは意識しています。現場の話を聞くときに、こちらが熱く話しすぎると、相手が合わせてしまうことがあります。特に外から来た人間が勢いよく話すと、現場の方は気を使ってくれるんです。

インタビュアー

相手に話してもらうために、温度を下げる。

倉持

そうですね。もちろん情熱がないわけではありません。ただ、現場ではこちらの熱量より、相手の違和感を聞けることの方が大事です。

インタビュアー

社内でも同じですか?

倉持

社内でも似ています。すぐに結論を出す人がいると、他の人が考える前に話が終わってしまうことがあります。私は『その一手前は何だろう』と聞くことが多いです。

インタビュアー

その一手前。

倉持

たとえば、入力が面倒だという話が出たとします。でも一手前を見ると、そもそも何を入力すればいいか分かりにくいのかもしれない。さらに一手前を見ると、確認の定義が人によって違うのかもしれない。

インタビュアー

静かに聞いているようで、かなり深く追っているのですね。

倉持

深く追りたいと思っています。ただ、詰問にならないように気をつけています。現場の人にとっては、問いの出し方ひとつで安心感が変わりますから。

Question 07

組織の中で、どんな人がオルビトンに合うと思いますか。

インタビュアー

組織の中で、どんな人がオルビトンに合うと思いますか?

倉持

小さな不便を軽く見ない人ですね。大きな課題を語れる人は多いのですが、現場で毎日五分ずつ失われている時間を大事に見られる人は意外と少ないです。

インタビュアー

五分の重さを分かる人。

倉持

はい。五分だけ聞くと小さく感じます。でもそれが毎日、複数人に起きているなら、現場の体力を削ります。しかも、その五分の中に焦りや申し訳なさが入っていることもあります。

インタビュアー

感情まで見るのですね。

倉持

見ます。業務改善という言葉にすると硬くなりますが、実際には人が疲れたり、言いにくかったり、何度も聞くのを遠慮したりしています。そこを分かる人と働きたいです。

インタビュアー

技術者にもそういう感覚を求めますか?

倉持

求めます。コードを書けることは大切ですが、そのボタンを押す人がどんな姿勢で立っているかを想像できることも大切です。手袋をしているかもしれないし、片手がふさがっているかもしれない。

インタビュアー

細かいですね。

倉持

細かいです(笑)。でも、その細かさが使われるかどうかを分けると思っています。

Question 08

事業として広げるとき、現場への丁寧さとどう両立させますか。

インタビュアー

事業として広げるとき、現場への丁寧さとどう両立させますか?

倉持

ここはいつも悩みます。丁寧に見ようとすると時間がかかります。一方で、会社としては広げていかなければいけない。その両方があります。

インタビュアー

どちらかに寄せすぎると難しい。

倉持

そうですね。全部の現場を同じ深さで見ることはできません。だから、最初に見るべき型を持つようにしています。人が止まる場所、確認が重なる場所、言葉の意味がずれる場所。そこはどの現場でも見る。

インタビュアー

観察の型を持つ。

倉持

はい。ただし、型で見たうえで、必ず外れる部分も見ます。現場はそれぞれ違いますから。型は楽をするためではなく、見落としを減らすためのものです。

インタビュアー

経営としては、標準化と個別理解の間を進むわけですね。

倉持

まさにそうです。広げるためには標準化が必要です。でも、標準化のために現場の意味を消してしまうと、広がっても残りません。

インタビュアー

広がることと、残ることは違う。

倉持

違います。私は、残るものを広げたいです。

Question 09

将来、オルビトンが扱う領域はどこまで広がるのでしょうか。

インタビュアー

将来、オルビトンが扱う領域はどこまで広がるのでしょうか?

倉持

在庫移動から始まっていますが、見ているのは受け渡し全般です。物の受け渡し、情報の受け渡し、責任の受け渡し。そこにはいろいろな領域があります。

インタビュアー

在庫管理というより、受け渡しの会社になる可能性がある。

倉持

言い方としては近いです。ただ、あまり大きな看板を掲げると自分たちが迷います。まずは物の動きに近いところを丁寧にやりたいです。

インタビュアー

急に抽象化しすぎない。

倉持

はい。抽象化は後からでいいと思っています。現場で本当に使われるものをつくっていくと、自然に共通点が見えてくる。その順番を守りたいです。

インタビュアー

将来像も静かな感じですね。

倉持

そうかもしれません。大きく変えるというより、仕事の途中で人が困らないようにする。その積み重ねが結果的に大きな変化になるなら、それが一番いいと思っています。

インタビュアー

倉持さんらしい締め方です。

倉持

派手ではないですが、私たちらしいと思います。

Question 10

オルビトンが扱う運用ノートは、どのようなものですか。

インタビュアー

オルビトンが扱う運用ノートは、どのようなものですか?

倉持

大きなシステムを置き換えるというより、現場の確認を一か所に寄せるための道具です。在庫の場所、移動予定、確認した人、次に見るべきことを、忙しい時間でも残せるようにしています。

インタビュアー

記録を増やすというより、探す時間を減らす。

倉持

はい。記録が増えすぎると、それ自体が負担になります。必要なのは、次の人が迷わないだけの情報です。そこを欲張りすぎないようにしています。

Question 11

現場で一番起こりやすいすれ違いは何でしょうか。

インタビュアー

現場で一番起こりやすいすれ違いは何でしょうか?

倉持

『確認済み』という言葉の意味が人によって違うことです。数を見たのか、場所を見たのか、出荷できる状態まで見たのか。言葉は同じでも、確認した範囲が違うことがあります。

インタビュアー

たしかに、それは後から誤解になりそうです。

倉持

そうなんです。だから、確認という言葉を細かく分ける必要があります。ただし細かくしすぎると使われません。そこが難しいところです。

Question 12

機能を増やしすぎないことも意識しているのですね。

インタビュアー

機能を増やしすぎないことも意識しているのですね。

倉持

かなり意識しています。現場は新しい画面を触るために仕事をしているわけではありません。出荷したい、探したい、確認したい。その動きの邪魔をしないことが大事です。

インタビュアー

便利そうに見えることと、実際に使えることは違う。

倉持

まったく違います。現場で三秒迷わせたら、忙しい日はもう使われません。だから、画面の余白や言葉の順番まで見ます。

Question 13

倉庫と店舗では、見ている景色も違いますか。

インタビュアー

倉庫と店舗では、見ている景色も違いますか?

倉持

違います。倉庫はまとめて動かすことを考えますし、店舗は目の前のお客様や売り場の流れを見ています。どちらも正しいのですが、急いでいると相手の事情が見えにくくなる。

インタビュアー

その間を翻訳する必要がある。

倉持

そうですね。オルビトンがやりたいのは、どちらかを正すことではなく、互いの判断材料が伝わる状態をつくることです。

Question 14

組織づくりでは何を大切にしていますか。

インタビュアー

組織づくりでは何を大切にしていますか?

倉持

現場の言葉を急いで置き換えないことです。こちらの都合で名前をつけると、見た目は整理されます。でも、使う人にとっては少し違う言葉になってしまうことがある。

インタビュアー

きれいな言葉にしすぎない。

倉持

はい。少し不格好でも、現場の人が『これなら分かる』と思える言葉を残したいです。

Question 15

判断に迷うときは、どこへ戻りますか。

インタビュアー

判断に迷うときは、どこへ戻りますか?

倉持

出荷前の一番忙しい時間を想像します。朝の準備、夕方の締め、急な変更。そこでも邪魔にならないかを考えます。

インタビュアー

落ち着いた会議室ではなく、慌ただしい現場で考える。

倉持

そうです。余裕があるときだけ使えるものは、現場の道具とは言いにくいと思っています。

Question 16

Grand Focusとして深く聞きたいのですが、倉持さん自身はどんな場面で手応えを感じますか。

インタビュアー

Grand Focusとして深く聞きたいのですが、倉持さん自身はどんな場面で手応えを感じますか?

倉持

『聞かなくても分かった』と言われたときです。大きな褒め言葉ではないかもしれませんが、私にはかなりうれしい言葉です。

インタビュアー

確認のための一往復が減った。

倉持

はい。その一往復が、忙しい現場では大きいんです。誰かの手を止めずに済む。それだけで空気が少し変わります。

Question 17

テクノロジーの役割を、どの程度まで広げたいですか。

インタビュアー

テクノロジーの役割を、どの程度まで広げたいですか?

倉持

人の判断を奪うところまでは広げたくありません。むしろ、判断する前の確認を短くしたい。現場の人が自分で決められる状態を支えるのが、ちょうどいい距離だと思っています。

インタビュアー

自動化よりも、判断しやすい状態をつくる。

倉持

そうです。全部を自動にすると、例外が起きたときに弱くなります。現場には例外が必ずありますから。

Question 18

今後、どの領域を深めていきたいですか。

インタビュアー

今後、どの領域を深めていきたいですか?

倉持

出荷前の確認だけでなく、返品や再配置まで含めて見たいです。物は一度動いて終わりではありません。戻ることもありますし、別の場所で必要になることもあります。

インタビュアー

物の動きには、戻り道もある。

倉持

はい。その戻り道まで見えると、現場の判断はかなり変わります。そこを丁寧に扱いたいです。

Question 19

倉持さんにとって、よい運用とは何でしょうか。

インタビュアー

倉持さんにとって、よい運用とは何でしょうか?

倉持

目立たないことです。うまく回っている運用は、あまり話題になりません。誰かが特別に頑張らなくても、自然に次へ渡っていく。

インタビュアー

目立たないことが価値になる。

倉持

そう思います。もちろん裏側では丁寧に作ります。でも使う人には、軽く感じてもらえる方がいいですね。

Question 20

最初に現場を見たとき、どこに違和感がありましたか。

インタビュアー

最初に現場を見たとき、どこに違和感がありましたか。

倉持

一番印象に残っているのは、みなさんが本当に忙しく動いているのに、同じ確認を何度もしていたことです。誰かが怠けているわけではなく、むしろ丁寧だからこそ確認が増えていました。

インタビュアー

確認するほど安心できる一方で、時間は失われていく。

倉持

そうです。しかも、その確認は表に出にくいんです。商品を探す、担当者に聞く、紙を見直す。どれも小さな作業ですが、積み重なると現場の呼吸を重くします。

インタビュアー

そこを効率化の対象として見たのですね。

倉持

効率化というより、まずは『これだけ頑張っているのに、なぜ迷いが残るのか』を知りたかったんです。現場の人に話を聞くと、原因は大きな失敗ではなく、情報の渡り方の小さなズレでした。

Question 21

紙や電話を否定しない姿勢が印象的です。

インタビュアー

紙や電話を否定しない姿勢が印象的です。

倉持

紙も電話も、現場ではちゃんと理由があって残っています。急いでいるときに声で確認した方が早いこともありますし、紙の一覧の方が見渡しやすいこともあります。

インタビュアー

新しい仕組みに全部置き換えるわけではない。

倉持

はい。置き換えること自体を目的にすると、現場からすると仕事が増えたように感じます。私たちが見ているのは、今あるやり方のどこに無理が出ているかです。

インタビュアー

古いやり方にも、現場の知恵が入っている。

倉持

その通りです。たとえば紙に書く順番にも意味があるんです。誰が見ても大事なものが先に目に入るようになっている。それを知らずに画面化すると、使いにくいものになります。

Question 22

忙しい時間帯に使える設計とは、どのようなものですか。

インタビュアー

忙しい時間帯に使える設計とは、どのようなものですか?

倉持

考えなくても次の動きが分かることです。忙しい時間帯の人は、説明文を読みたいわけではありません。今見るべきもの、次に押すもの、誰に渡すものがすぐ分かる必要があります。

インタビュアー

画面上の情報量もかなり絞るのですか?

倉持

絞ります。ただ、少なければよいわけでもありません。少なすぎると、結局また電話で聞くことになります。現場にとって足りる量を探るのが大事です。

インタビュアー

その調整は難しそうです。

倉持

難しいですね。しかも現場によって違います。だから最初から完璧な画面をつくるより、使われ方を見て直すことを前提にしています。

Question 23

管理者と現場では、同じ課題でも見え方が違いますか。

インタビュアー

管理者と現場では、同じ課題でも見え方が違いますか?

倉持

かなり違います。管理者は全体の遅れや数値を見ますが、現場の人は目の前の棚、伝票、出荷締め切りを見ています。どちらも正しい視点です。

インタビュアー

どちらか一方に寄せると、うまくいかない。

倉持

そうですね。管理者向けに細かい集計を増やしても、現場が入力できなければ意味がありません。逆に現場だけを見ていると、全体の偏りに気づきにくい。

インタビュアー

オルビトンは、その間の翻訳をしている。

倉持

翻訳という言葉は近いです。現場が自然に残した情報が、管理者にも読める状態になる。管理者の見たい情報が、現場に無理をかけない形で生まれる。そこを大切にしています。

Question 24

ミスが起きたときの扱い方も、組織によって違いそうです。

インタビュアー

ミスが起きたときの扱い方も、組織によって違いそうです。

倉持

違います。ミスを責める文化だと、記録は残りにくくなります。怒られるかもしれないと思えば、人は曖昧なままにしたくなる。そうなると、次の改善につながりません。

インタビュアー

記録は監視ではなく、次に迷わないためのもの。

倉持

まさにそうです。もちろん責任が不要という話ではありません。ただ、まずは何が起きたのかを見えるようにする。そこから手順を直すのか、表示を変えるのか、人の配置を変えるのかを考えます。

インタビュアー

ミスの背景を見るということですね。

倉持

はい。現場で起きることは、だいたい理由があります。焦り、情報不足、慣れ、確認の重複。そこを見ないで人だけを責めても、同じことがまた起きます。

Question 25

導入初期は、どのように現場へ入っていくのでしょうか。

インタビュアー

導入初期は、どのように現場へ入っていくのでしょうか?

倉持

最初はあまり大きなことを言わないようにしています。『全部変えましょう』ではなく、『この確認だけ一緒に見ましょう』から始めることが多いです。

インタビュアー

小さく始める。

倉持

はい。現場の人にとって、新しい道具は期待より先に不安があります。慣れたやり方が崩れるのではないか、余計な入力が増えるのではないか。そこを急がないようにしています。

インタビュアー

最初の一週間が大事ですか?

倉持

大事です。そこで『これは自分たちを楽にするものかもしれない』と思ってもらえるかどうか。逆に最初に面倒だと思われると、あとから取り戻すのはかなり難しいです。

Question 26

通知やアラートは増やせば便利になるのでしょうか。

インタビュアー

通知やアラートは増やせば便利になるのでしょうか?

倉持

増やせばよいものではありません。通知が多すぎると、人は見なくなります。重要なものまで埋もれてしまう。

インタビュアー

鳴ることより、見るべき瞬間に届くことが大事。

倉持

そうです。たとえば出荷締め切り前に必要な通知と、翌日でもよい確認は違います。全部同じ強さで出すと、現場は疲れてしまいます。

インタビュアー

通知にも温度差が必要なのですね。

倉持

あります。緊急、確認、共有、あとで見るもの。その違いをちゃんと分けるだけで、現場のストレスはかなり変わります。

Question 27

ベテランの感覚をどう扱っていますか。

インタビュアー

ベテランの感覚をどう扱っていますか?

倉持

とても大切にしています。ベテランの方は、画面に出ていない情報をたくさん見ています。音、動線、人の表情、いつもと違う棚の乱れ。そういう感覚は簡単には置き換えられません。

インタビュアー

一方で、属人化も課題になります。

倉持

そこが悩ましいところです。ベテランの勘を否定するのではなく、次の人が学べる形に少しずつ変えていく。『なぜそう判断したのか』を残せるようにするんです。

インタビュアー

技術で勘を奪うのではなく、共有できるようにする。

倉持

はい。現場の知恵が引き継がれる状態にしたいです。ベテランの方から『若い人に説明しやすくなった』と言われると、かなり嬉しいですね。

Question 28

現場の人と話すとき、気をつけていることはありますか。

インタビュアー

現場の人と話すとき、気をつけていることはありますか?

倉持

正しそうな言葉を先に出しすぎないことです。こちらが『ここが課題ですよね』と言ってしまうと、相手は合わせてくれることがあります。でも本当に困っていることは、別のところにあるかもしれません。

インタビュアー

聞く順番が大事なのですね。

倉持

はい。まず一日の流れを聞きます。どこで急ぐのか、誰に聞くのか、何があると少し安心するのか。そういう話を聞いていると、自然に直すべきところが見えてきます。

インタビュアー

雑談に近い会話もありますか?

倉持

ありますよ。むしろ雑談の中に大事な話が出ることがあります。『この棚、いつも探すんだよね』みたいな一言が、実は大きなヒントだったりします(笑)。

Question 29

経営者として、待つことも必要ですか。

インタビュアー

経営者として、待つことも必要ですか?

倉持

必要だと思います。早く直したい気持ちはありますが、現場が納得しないまま進めると長続きしません。特に運用に関わるものは、使う人のリズムに入らなければ意味がないんです。

インタビュアー

スピードだけでは進まない。

倉持

そうですね。もちろん遅すぎてもいけません。ただ、待つというのは何もしないことではありません。観察し、話を聞き、小さく試し、タイミングを見て次に進むことです。

インタビュアー

現場の速度に合わせる。

倉持

はい。経営としては焦る場面もあります。でも、現場の人が『これなら自分たちの道具だ』と思えるまで付き合うことが、結果的には近道になることが多いです。

Question 30

採用やチーム文化では、どんな人と働きたいですか。

インタビュアー

採用やチーム文化では、どんな人と働きたいですか?

倉持

現場を面白がれる人です。倉庫や店舗の確認作業は、外から見ると地味に見えるかもしれません。でも、そこには人の判断や工夫が詰まっています。

インタビュアー

地味なところに価値を見つけられる人。

倉持

そうです。派手な機能をつくるより、『この一手間がなくなると助かるよね』と考えられる人が合っています。あと、現場の方に敬意を持てることは欠かせません。

インタビュアー

技術力だけでは足りない。

倉持

技術力は大事です。でも、使う人を見ない技術は現場に残りません。私たちの仕事は、人の仕事のそばに置かれるものをつくることですから。

Question 31

物流や店舗運営は、これからどう変わると見ていますか。

インタビュアー

物流や店舗運営は、これからどう変わると見ていますか?

倉持

より速く、より細かく、でも人手は限られていくと思います。だからこそ、現場の人が無理をし続ける前提では続きません。

インタビュアー

仕組みで支える必要がある。

倉持

はい。ただし、全部を自動化すればよいとは思っていません。人が判断した方がよい場面は残ります。大事なのは、人が判断すべきところに力を使えるようにすることです。

インタビュアー

オルビトンの役割もそこにある。

倉持

そう考えています。探し直しや聞き直しに時間を使うのではなく、必要な判断に集中できる状態を増やしたい。現場の一日が少し軽くなることに価値があると思っています。

Question 32

在庫情報の正しさと、人が安心して動けることは別の問題ですか。

インタビュアー

在庫情報の正しさと、人が安心して動けることは別の問題ですか?

倉持

別ですね。数字が正しくても、その数字を見た人が『今すぐ動かしていい』と判断できなければ、現場は止まります。正しいデータと、使えるデータは少し違います。

インタビュアー

正しさだけでは、動き出せない場面がある。

倉持

あります。たとえば在庫数はある。でも検品が終わっているのか、誰かが押さえているのか、移動中なのかが分からない。すると結局、人に聞くことになります。

インタビュアー

人に聞くと安心できる一方で、時間はかかります。

倉持

そうです。だから、人に聞いていた安心の中身を見ています。何が分かれば動けるのか。どの一文があれば迷わないのか。そこが分かると、画面に出すべき情報も決まってきます。

インタビュアー

安心を設計するという言い方もできそうです。

倉持

少し柔らかく言えばそうですね。現場の人が余計な緊張をせずに、次の判断へ進める状態をつくりたいです。

Question 33

返品や再配置まで見たいと話されました。そこにはどんな難しさがありますか。

インタビュアー

返品や再配置まで見たいと話されました。そこにはどんな難しさがありますか?

倉持

戻ってくる物は、前に進む物よりも扱いが複雑です。状態が一定ではありませんし、誰が何を確認したのかも分かれやすい。

インタビュアー

出荷とは違う種類の確認が必要になる。

倉持

はい。箱を開ける、状態を見る、再び売り場に戻せるのか、別の場所に送るのかを判断する。そこには在庫数だけでは表せない情報があります。

インタビュアー

戻り道ほど、記録が薄くなりやすい。

倉持

そうですね。出荷は流れが決まっていることが多いですが、戻りは例外が多い。だからこそ、現場が覚えていることに頼りすぎない仕組みが必要になります。

インタビュアー

例外を例外のまま扱えることが大事なのですね。

倉持

その通りです。全部をきれいな型にはめるより、『これは少し違う』と残せる余地がある方が、実際の運用には合っています。

Question 34

現場の小さな工夫を、会社としてどう受け止めていますか。

インタビュアー

現場の小さな工夫を、会社としてどう受け止めていますか?

倉持

宝物みたいなものだと思っています。棚の並べ方、付箋の色、声をかける順番。外から見ると小さくても、現場では長い時間をかけて残ってきた工夫です。

インタビュアー

そこを無視すると、道具が嫌われそうです。

倉持

嫌われますね。『この方が正しいです』と外から言っても、現場には現場の理由があります。まずは、その工夫が何を守っているのかを知る必要があります。

インタビュアー

守っているもの、ですか?

倉持

はい。ミスを減らしているのか、新人が迷わないようにしているのか、急ぎの時だけ使う目印なのか。理由を知らずに消すと、別のところで負担が出ます。

インタビュアー

デジタル化の前に、観察がある。

倉持

そうです。観察しないままつくると、現場の知恵を壊してしまうことがあります。

Question 35

経営者として、売りやすい機能と本当に必要な機能で迷うことはありますか。

インタビュアー

経営者として、売りやすい機能と本当に必要な機能で迷うことはありますか?

倉持

あります。見た目に分かりやすい機能は説明しやすいですし、商談でも伝わりやすい。でも現場に長く残るのは、もっと地味なところだったりします。

インタビュアー

地味な機能は、価値を伝えるのが難しそうです。

倉持

難しいです。『この確認が一回減ります』という価値は、派手なデモにはなりにくい。でも現場では大きい。だから、営業の言葉も丁寧に考えます。

インタビュアー

売るために大きく見せすぎない。

倉持

そうですね。大きく見せたくなる気持ちはあります。でも、実際に使ったときに期待と違うと信頼を失います。私たちは地味でも、続く価値を話したいです。

インタビュアー

そこは経営判断でもありますね。

倉持

はい。短期的に分かりやすいものへ寄せるか、長く使われるものを育てるか。迷いますが、後者を選びたいと思っています。

Question 36

導入先ごとの違いは、どこまで個別対応するのでしょうか。

インタビュアー

導入先ごとの違いは、どこまで個別対応するのでしょうか?

倉持

全部を個別にすると、運用が重くなります。一方で、現場の違いを無視すると使われません。その間を探しています。

インタビュアー

共通の型と、現場ごとの違いを分ける。

倉持

はい。たとえば確認の流れは似ていても、呼び方や優先順位は違うことがあります。そこは変えられるようにします。ただ、基礎になる流れはなるべく共通にしたい。

インタビュアー

会社としても、複雑になりすぎる怖さがありますね。

倉持

あります。個別対応を積み上げると、あとで直せなくなる。だから、要望を受けるときも、その裏にある困りごとを見ます。

インタビュアー

要望そのものではなく、困りごとを見る。

倉持

そうです。ボタンが欲しいと言われても、本当に必要なのは通知かもしれません。そこを一緒に考えます。

Question 37

現場から信頼されるまでには、時間がかかりますか。

インタビュアー

現場から信頼されるまでには、時間がかかりますか?

倉持

かかります。最初から信用してくださいとは言えません。現場の方は、過去にもいろいろな仕組みを試してきていることがありますから。

インタビュアー

新しいものへの警戒も自然ですね。

倉持

自然です。『また入力が増えるのでは』と思われることもあります。だから、最初は小さな不便を確実に減らすことを意識します。

インタビュアー

小さな成功を積む。

倉持

はい。たとえば、電話一本が減る。探し直しが一回減る。そういう体験があると、少しずつ見方が変わります。

インタビュアー

大きな約束より、日々の実感ですね。

倉持

そう思います。現場の信頼は、説明資料ではなく毎日の使い心地で決まります。

Question 38

倉持さん自身は、どんな失敗から学びましたか。

インタビュアー

倉持さん自身は、どんな失敗から学びましたか。

倉持

最初の頃は、こちらが見つけた課題を少し急いで解こうとしていました。現場の方からすると、まだ話し切っていないのに答えを出されたように感じたかもしれません。

インタビュアー

早く解決したい気持ちが先に出た。

倉持

はい。良かれと思っていましたが、今振り返ると聞く時間が足りなかったと思います。現場の方は、自分たちの仕事をちゃんと見てくれているかをよく見ています。

インタビュアー

解決策の前に、理解されている感覚が必要。

倉持

その通りです。今は、提案より先に『ここまで合っていますか』と確認するようにしています。それだけで会話の深さが変わります。

インタビュアー

経営者としても変わったところですか?

倉持

変わりました。速く動くことと、相手を置いていかないことを両立させたいと思うようになりました。

Question 39

Grand Focusとして、倉持さんの仕事の核を一言で言うなら何でしょうか。

インタビュアー

Grand Focusとして、倉持さんの仕事の核を一言で言うなら何でしょうか?

倉持

『次の人が迷わないようにすること』だと思います。倉庫でも店舗でも、仕事は必ず誰かから誰かへ渡ります。その受け渡しを軽くしたい。

インタビュアー

受け渡しに注目している。

倉持

はい。在庫そのものより、在庫を動かす人の連携を見ています。そこに少し余裕が生まれると、現場の雰囲気も変わります。

インタビュアー

雰囲気も変わるのですか?

倉持

変わります。確認に追われていると、どうしても声が急ぎます。迷いが減ると、会話にも余裕が出る。そういう変化は数字だけでは見えにくいですが、大事だと思っています。

インタビュアー

かなり人に近い仕事ですね。

倉持

そうですね。物を扱っているようで、実は人の判断と会話を扱っているのだと思います。

Question 40

自動化という言葉について、倉持さんは慎重に扱っている印象があります。

インタビュアー

自動化という言葉について、倉持さんは慎重に扱っている印象があります。

倉持

慎重ですね。自動化は便利な言葉ですが、現場で何が自動になるのかをきちんと見ないと危ないです。判断まで消してしまうのか、確認だけ軽くするのかで意味がまったく違います。

インタビュアー

自動化すればよい、とは考えていない。

倉持

考えていません。むしろ、人が判断すべきところは残した方がいいと思っています。商品の状態やお客様との関係、店舗の事情は、現場の人が一番よく分かっていることがあります。

インタビュアー

では、オルビトンが軽くしたいのはどこですか?

倉持

探し直しや聞き直しです。判断の前に、情報を探すだけで疲れてしまうことがあります。そこを軽くできれば、人は本来の判断に力を使えます。

インタビュアー

判断を奪うのではなく、判断の前の摩擦を減らす。

倉持

そうです。現場の人が持っている経験を消したいわけではありません。その経験が必要な場面に届くようにしたいんです。

インタビュアー

かなり人間中心の考え方ですね。

倉持

そうかもしれません。物を動かす現場ですが、最後は人の理解と判断で回っていますから。

Question 41

システムが入ることで、現場の人間関係は変わりますか。

インタビュアー

システムが入ることで、現場の人間関係は変わりますか?

倉持

変わります。良くも悪くも変わります。たとえば、今まで口頭で確認していたことが記録に残るようになると、安心する人もいれば、見られているように感じる人もいます。

インタビュアー

そこはかなり繊細ですね。

倉持

繊細です。だから、導入時には『誰かを評価するためではなく、確認の負担を減らすためです』ということを丁寧に伝えます。言葉だけでは足りないので、実際にそういう使われ方になるように設計しなければいけません。

インタビュアー

仕組みの目的が、運用で伝わる必要がある。

倉持

はい。もし管理者だけが見る画面ばかり強くなると、現場は監視されているように感じます。逆に、現場自身が楽になる場面が増えると、少しずつ受け入れられます。

インタビュアー

導入後のコミュニケーションも重要ですか?

倉持

重要です。最初の数週間は、機能より会話の方が大事なこともあります。困ったことが出たらすぐ聞ける、言っても直してくれる。そう感じてもらえると、道具への警戒が下がります。

インタビュアー

信頼を積む期間ですね。

倉持

そうですね。システム導入というより、現場との関係づくりに近いです。

Question 42

倉持さんは、経営者として何を見落とさないようにしていますか。

インタビュアー

倉持さんは、経営者として何を見落とさないようにしていますか?

倉持

使われない理由です。機能が足りないから使われないのか、言葉が合っていないから使われないのか、そもそもその業務が忙しすぎるのか。使われないという結果だけを見ないようにしています。

インタビュアー

使われないにも種類がある。

倉持

あります。『必要ない』と『必要だけれど使う余裕がない』は違います。『便利だと思うけれど、今の流れに入らない』もあります。

インタビュアー

そこを見間違えると、次の打ち手も変わる。

倉持

そうです。使われないから機能を増やす、という判断は危険です。機能を増やすほど、さらに使われなくなることもあります。

インタビュアー

削る判断も必要ですか?

倉持

必要です。つくったものを削るのは勇気がいります。でも現場にとって重いなら、削った方がいい。経営としても、何をやらないかを決めることは大事だと思っています。

インタビュアー

倉持さんの静かな経営判断が見えます。

倉持

静かかどうかは分かりませんが、現場に残るものをつくるには、足すより引く方が難しいことがあります。

Question 43

一年後、導入した現場にどんな変化があると嬉しいですか。

インタビュアー

一年後、導入した現場にどんな変化があると嬉しいですか?

倉持

確認の電話が減ったことより、確認の会話が落ち着いたと言われると嬉しいです。電話がゼロになることを目指しているわけではありません。必要な会話は残っていい。

インタビュアー

会話をなくすのではない。

倉持

はい。むしろ、情報を探すための会話が減ることで、相談や判断の会話が増えるなら良いと思っています。

インタビュアー

会話の質が変わる。

倉持

そうです。『どこにありますか』ではなく、『この状態ならどうしますか』と話せるようになる。現場の人が少し前向きな会話に時間を使えるようになるといいですね。

インタビュアー

かなり細やかな成果の見方です。

倉持

数字にも表れる部分はありますが、現場の空気にも表れます。声が少し柔らかくなる、聞き直しにくさが減る。そういう変化を見逃したくありません。

インタビュアー

オルビトンが目指しているのは、効率だけではないのですね。

倉持

効率も大事です。ただ、効率の先に人が落ち着いて働けることがあるなら、その方が長く続くと思っています。

Question 44

最後に、オルビトンで実現したいことを教えてください。

インタビュアー

最後に、オルビトンで実現したいことを教えてください。

倉持

現場の人が、確認に追われる時間を少しでも減らせる状態をつくりたいです。確認は大事ですが、確認そのものが仕事の中心になってしまうのはもったいない。

インタビュアー

本来の仕事に戻すための仕組みですね。

倉持

はい。物を動かす仕事は、人の生活や店の動きにつながっています。その流れを、もう少し静かに支えられる会社でありたいです。

Editor's Note

倉持氏の話には、物流現場への敬意がある。効率化という言葉で片付けず、確認する人、待つ人、探す人の小さな緊張を見ている。その視線が、オルビトンの静かな強さになっている。

Profile

倉持岳。オルビトン Founder / CEO。在庫移動と出荷確認を支える運用ノートの開発に取り組む。倉庫、店舗、出荷管理のあいだに残る確認負担を起点に、現場の言葉を尊重した業務支援を進めている。

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